【イラン】ペルシャ音楽の調べに乗せて、おどる大胸筋、しなる僧帽筋、うねる上腕三頭筋…伝統の「ズールハーネ」、男たちの筋肉の共演
ペルシャ音楽の調べに乗せて、おどる大胸筋、しなる僧帽筋、うねる上腕三頭筋。イラン発祥のスポーツ「ズールハーネ」はまるで、マッスル・ミュージカルだ。(テヘラン支局・神田大介)
扉を開けると、男臭さが充満していた。イランの首都テヘランの北部、古い住宅街の一角にある「ズールハーネ・タレハニ」を昨年暮れに訪ねた。ズールはペルシャ語で「力」、ハーネは「家」「館」を意味する。ズールハーネはいわば、「古式イラン流筋力トレーニング道場」なのだ。部屋の中央は八角形に、床から1メートルほど掘り下げられている。向こう端まで約6メートルの中に、ひしめく10人あまりの屈強な男たち。巨大な木製のこん棒を1本ずつ、両手に持っている。中心の1人がかけ声をあげると、全体を見下ろす一角に陣取った「モルシェド」(師匠)が、太鼓をたたきながら独唱を始めた。
全員が一斉にこん棒を持ち上げ、ひねり、下ろす。1本10?40キロ。この日の参加者は11歳から77歳までと幅広かったが、全員が同じリズムを刻む。合図があるまで何十回も続ける。傍らでは、1メートル四方はある木製の盾を2枚、仰向けの姿勢から持ち上げている。弓のような鉄製の器具を掲げ、左右に振り回す者も。いずれも一つ30キロ近い重さがある。その後、男たちは八角形のへりに沿って輪になった。若い1人が中心に躍り出ると、両手を水平に上げ、自らの体を軸に回転し始める。まるで「人間ベーゴマ」。勢いで飛び出そうになると、別の男が壁になって止める。1人ずつ繰り返す。勢いを増す演奏。男たちの体はみるみる紅潮していった。