【企業】クックパッド 収束しない騒動 [東洋経済オンライン]
ネット業界を代表する成長株のクックパッド。レシピサイト最大手の同社で起きた経営方針をめぐる騒動は、まだ収束していなかった。クックパッドは3月24日の株主総会後、ここ数年の業績を牽引してきた穐田誉輝(あきた・よしてる)社長の退任を発表した。創業者の佐野陽光氏と穐田氏は昨年秋以降、経営方針をめぐり対立。筆頭株主(約44%を保有)の佐野氏は、1月に自身を除く全取締役の刷新を求める株主提案の実施を表明した。その後、今年2月にクックパッドは佐野氏の提案を一部取り入れた取締役選任案で合意したと発表。一応の和解があったと見られており、穐田氏が社長を当面続投するとの見方が根強かった。■ 穐田社長の退任は「寝耳に水」だった
ところが、新社長に就いたのはコンサルティング会社マッキンゼー出身の岩田林平氏。翌25日、穐田氏の退任と岩田氏の就任は株式市場に衝撃を持って受け止められ、クックパッドの株価は前日比13%の下落となった。実は、新体制が“寝耳に水”だったのは、当の本人である穐田氏にとっても同じだった。ある社員はこう語る。「共同代表などの形を取り、穐田氏の代表権が維持される内容で、佐野氏と他の取締役たちが歩み寄ったはずだった。それが株主総会後の取締役会で、突然、反故にされたようだ」。取締役会は9人中、佐野氏が提案したメンバーが自身を含めて6人を占める。「解任」ではなく「退任」という形をとってはいるが、実際には詰め腹を切らされた状況のようだ。24日夜、穐田氏は「非常に残念なことになってしまった」などと漏らし、気落ちした様子だったという。不本意な形で社長の座から降りただけではない。事業執行を統括する3人の執行役の1人として、岩田社長、佐野氏とともに名を連ねてはいるが、実権はほぼすべて奪われたに等しい状況だ。新体制で、岩田社長はクックパッドの主力である会員事業や広告事業を統括。佐野氏は海外事業やヘルスケア事業など、それぞれが約10の事業を率いている。一方で、穐田氏に割り振られたのは「国内関連会社」のたった一つだけ。「仕事を奪われて、『追い出し部屋』に追いやられているのと同じ。この数年の業績を伸ばしてきた立役者に対して、あまりにもひどい仕打ちだ」(社員)。社員にも動揺が広がっている。
株主総会と新体制を決めた取締役会が開かれた翌日の25日、朝の10時半に社員集会が開かれた。佐野氏、岩田氏、穐田氏の3人が順番にあいさつをした。佐野氏は株主の信任を得たと説明し、穐田氏は一連の騒動について謝罪したが、集まった社員から拍手が起きたのは穐田氏が話した時だけだったという。財務や広告を管掌していた執行役が退任したほか、事業部長級にも突然の異動が通告されるなど、実務にも混乱が生じ始めている状況のようだ。■ 社員の7割が前社長の復帰を熱望
社内では、穐田氏の代表執行役復帰を求める署名活動も始まっている。クックパッドの国内の正社員は約240人。すでに7割強が賛同して署名を行ったという。近く開かれる見通しの取締役会に署名を提出するなどして、最終的には取締役を動かし、佐野氏の執行役解任につなげようとする動きだ。株主総会に出席した60代の男性株主は、会場を後にする際に、経営の混乱についていらだった様子で感想を述べた。「もう個人商店じゃないんだからさ、東証1部上場の会社なんだから。こんなことが続いては、急成長していた業績が急降下しかねない。いい加減にしてほしいよ」。はたして、今後も企業活動を今まで通りに続けられるのか。佐野氏の新体制に社員の大多数が背を向けるのであれば、それすら危ぶまれる状況だ。仮に今後、穐田氏が会社を去る事態となれば、人材の大規模な流出も避けられないだろう。クックパッドが自ら陥った経営危機は、想定を超えて深刻な状況に発展する可能性がある。東洋経済オンライン:2016年3月31日(木) 8時23分掲載
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